「お母さんが転んで手術に…」そんな知らせは、ある日突然やってきます。
病院に駆けつけたものの、今後の生活や介護の選択を急に迫られ、戸惑いと不安で胸がいっぱいになっていませんか?
そんな時、あなたを支えてくれるのは、親御さんの「こう暮らしたい」という意向と、介護の選択肢についての知識です。
事前に親御さんの希望と介護の形を確認しておけば、いざという時、落ち着いて次の一歩を踏み出せるようになります。
私は看護師として30年以上、現場で「どうすればいいか分からない」と悩むご家族に寄り添ってきました。私自身も50代。離れて暮らす親の老いと向き合う一人です。
この記事を読めば、急な入院の際にも、親御さんの想いを尊重した選択ができるようになります。
たとえ病状ですべての希望が叶わなくても、意向を知り、家族の協力体制を整えておくことが、
後悔しない介護への第一歩です。
- 親の意向確認が、なぜ「家族の心のゆとり」に繋がるのか
- 自宅か施設か?慌てないために知っておきたい「住まいの選択肢」
- 親を不安にさせない、介護方針の「自然な切り出し方」と会話のコツ
親の介護が突然始まった病院での事例
看護師として現場に立っていると、ご本人とご家族の思いがすれ違い、お互いに切ない思いをされる場面に何度も出会います。
実際にご家族がどんなことで悩み、立ち止まってしまうのか。よくある外来での一コマをのぞいてみましょう。
急な入院でパニックになるご家族の一コマ
娘さん「家の段差でつまずいて、転んで手をついたら折れちゃって…」



「普段元気で暮らしてるから、母から連絡が来てびっくりです!」



「大変でしたね。明日からの入院ですが、当日手術で翌日には退院できますからね。手術翌日の午前中には帰れますよ。」



「えっ!困りますけど。私達姉妹は全員働いていて、母は一人暮らしなんです。もとに戻るまで、入院させてください!」



「お気持ちはお察しいたします。主治医から説明があったように、術後はリハビリ通院になります。今回のことをきっかけに万が一に備え、今後のことを家族で話合えるといいですね。」



「私は自宅が一番いいから、施設とか老人の集まりは嫌!」



「お母さん、私達だって仕事や家庭があるのよ!」
口喧嘩がはじまる…。
いかがでしたか?
娘さんは「お母さんのために」という一心ですが、病院の現実(早期退院の流れ)と、ご自身の生活状況との板挟みになって、パニックに近い状態になってしまっています。
実は、こうした葛藤の多くは、「もしもの時にどうするか」という親御さんの意向を、元気なうちに確認できていないことから生まれます。
親の介護に備えて「親の意向」を話し合っておこう(在宅or施設?)
今回のケースは「骨折で急遽手術→すぐ退院」という流れでしたが、突然の入院って、実は意外と身近に起こるんです。
たとえば、脳出血や脳梗塞で倒れて…
なんてことも、珍しくありません。
そんなとき困るのが「このあと、どうする?」という話。
親の希望は…
- 住み慣れた自宅での生活?
- それとも、安心して過ごせる施設の方がいい?
そして、在宅を希望された場合、「介護をするのは誰?」「一人に負担が集中しない?」など家族での連携も大切になってきます。
介護は一時的なものではなく、長いお付き合いになることも多いです。
だからこそ、できれば元気なうちに、ご本人の気持ちや希望を聞いておくことが大事ですね。
高齢者向け施設の種類と特徴をわかりやすく解説
いざ「施設も視野に入れよう」と考えたとき、多くのご家族が最初にぶつかる壁が「種類の多さと分かりにくさ」ではないでしょうか。
「特養」「老健」「サ高住」…
ニュースやパンフレットで目にする似たような名前ばかりで、「結局、何が違うの?」「うちの親に合っているのはどれ?」と迷ってしまいますよね。
選択肢を知らなければ、親御さんと具体的な話し合いもできません。
そこで次は、代表的な高齢者向け施設のそれぞれの特徴や違いを、看護師の視点で分かりやすく整理してみましょう。
比較的元気な方が対象の施設
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
- バリアフリーの賃貸住宅で、安心して暮らせる
- 生活相談や安否確認などのサービスつき
- 外出・外泊も自由!
- 必要に応じて訪問介護や通所介護を利用できる
住宅型有料老人ホーム
- 食事、掃除、見守りなどの生活支援が中心
- 介護サービスは外部と契約して受けるスタイル
- イベントやレクリエーションが豊富で、交流の場も◎
介護が必要な方向けの施設
介護付き有料老人ホーム
- 24時間体制で介護スタッフが常駐
- 身体介護や生活支援、機能訓練など幅広く対応
- レクリエーションや行事も多く、手厚いケアが受けられる
特別養護老人ホーム(特養)
- 公的な施設で、費用も比較的安め
- 要介護3以上が原則・入居待ちが長い傾向
- 終身利用できるのが大きな特徴
介護老人保健施設(老健)
- 病状が落ち着いた人が対象
- 医師や看護師、リハビリスタッフがいて在宅復帰を目指す
- 一時的な入所が前提
グループホーム(認知症対応)
- 認知症の方が少人数で共同生活を送る場所
- 地域密着型で、家庭的な雰囲気
- 住民票がその市区町村にあることが条件
親の介護意向の確認方法・上手な切り出し方
介護が必要になった瞬間、家族は「どこで、誰が、どう支えるか」という重い決断を短期間で迫られます。
そのとき、親御さんの本音を知らないままだと、家族は「これでいいのかな…」という罪悪感を抱え続け、最悪の場合は家族間でのトラブルに発展してしまうことも。
逆に、意向がわかっていれば、たとえ病状ですべてを叶えられなくても、「本人の想いを尊重した、納得感のある選択」ができるようになります。


「後悔しない選択」親の本当の希望を引き出す4つのステップ
まだ、元気なうちにこうした話をするのは、「縁起でもない」とためらわれるかもしれません。
けれど、お互いに笑顔で向き合える「今」だからこそ、そっと受け止められる大切な想いがあります。
「介護」という言葉を正面から使う必要はありません。親御さんのこれまでの暮らしや価値観を尊重しながら、自然に本音を引き出していく。
そんな、未来の安心を一緒につくるための「4つのステップ」を、看護師の視点からご紹介します。
リラックスした「日常のひととき」を逃さない
散歩中や食事中など、自然の会話から本音が出やすいものです。
「これからの暮らしで、一番大切にしたいことは何?」といった、抽象的な問いかけから始めてみるのがコツです。
「テレビや周囲の話題」をクッションにする
「テレビで老後の住まいの特集をしていたけど、お父さんはどう思う?」
「ご近所の〇〇さんのところ、介護が始まったみたいだけど、うちはどうしよっか?」と、
外部の話題を借りて「自分事」へスライドさせると、心理的なハードルがぐんと下がります。
「健康診断や通院のタイミング」を活用する
実は医療現場にいると、お一人で受診される高齢の患者さんはとても多いと感じます。
親御さんも、わが子に心配をかけまいと「大丈夫だよ」と言いつつ、お医者さんの説明を正確に聞き取れていなかったり、不安を一人で抱えていたりすることも少なくありません。
まずは、健康診断の結果を一緒に確認したり、時には病院の受診に付き添ってみてください。
そこから、ご両親の意向を自然に聞くことができると思います。
家族が集まった時に「共通認識」を作る
お盆や正月など、家族全員が揃った時に、ステップ1〜3で聞いた親の意向を共有します。
「お父さんはこう言っていたよ」と子供たちが足並みを揃えておくことで、いざという時の家族間トラブルを防ぎ、全員が納得できる協力体制を築く土台になります。
【体験談】親の本音と私の気づき
看護師と多くのご家族を見てきた私ですが、自分の親のこととなると、その「本音」に気づけていなかった一人です。
定年したばかりの60代から70代の頃、私の両親は移住した八ヶ岳の麓で、ゴルフや山登りと人生を存分に楽しんでいました。
昭和10年代生まれの頑固な父は、よくこう話していたのです。
「健康で、いつまでもこの自然の中で生きる。老人の集まるような所には行かない!」
そんな父が、ある日の散歩中にふと、こうつぶやきました。
「さくらには迷惑をかけない、最後は施設でいい。」
そのとき、私は何も返す言葉がありませんでした。
親は、いつまでも「親」でした
あんなに頑固だった父が、自分の最期を施設に委ねると言った理由。
それは決して諦めではなく、「どんな時でも、わが子の幸せを一番に願う」親心だったのだと気づきました。
親の意向を確認することは、いざという時に自分と親を支えるための、「準備の肯定」なのだと思います。
あらかじめ親御さんの「本音」を知り、家族で情報を共有しておくこと。それが、後悔しない選択をするための、確かな一歩になります。
今回のまとめ:親の介護方針を考えるために
親の介護において、後悔しないための最大の鍵は、元気なうちに「親の意向」を確認しておくことです。
介護はある日突然、一本の電話から始まります。
そのとき親御さんの本音を知っていれば、たとえすべての希望が叶わなくても、「本人の想いを尊重した選択ができた」という納得感が生まれます。
それは、家族の罪悪感や葛藤をやわらげる大きな支えになるのです。
難しく考えなくて大丈夫。まずは、こんな小さな一歩から始めてみてください。
- 日常会話の中で「これからの暮らし」を聞いてみる
- テレビや新聞の話題を借りてさりげなく将来の話を切り出す
- 通院の付き添いを通して今の体の状態を一緒に把握する
- 帰省のタイミングで家族みんなで意向を共有する
親の意向を確認することは、いざというとき、自分自身を支え、家族の共倒れを防ぐための前向きな「準備の肯定」です。
今日から少しずつ、後悔のない未来に向けて歩み出してみませんか?
親の希望を知っておくことは、家族みんなの安心につながる第一歩です。









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